ボードゲーム雑感「うどん県の例の条例とボードゲームについて(その2)」

少し間が空いたが、うどん県の例の条例の批判およびその条例がボードゲームにどのような影響を及ぼすかの考察の第二弾である。前回の記事を読んでいたほうがこの条例のアホさ加減がよくわかるので、未読の方はまずはそちらをご一読いただきたい。

前回の内容は条例の頭から第7条までだったので、今回は第8条から。

国との連携(第8条)

第4条~第7条では関係者(県、学校等、家庭、その他の関係者)の責務について規定していたが、第8条では県が国との連携について述べている。

第8条 県は、国と連携協力してネット・ゲーム依存症対策の推進を図るとともに、ネット・ゲーム依存症対策に関して必要があると認めるときは、国に対し、他の依存症対策と同様に、法整備や医療提供体制の充実などの必要な施策とともに、ネット・ゲーム依存症の危険要因を踏まえた適切な予防対策の策定及び実施を講ずるよう求める。

2 県は、国に対し、eスポーツの活性化が子どものネット・ゲーム依存症につながることのないよう慎重に取り組むとともに、必要な施策を講ずるよう求める。

3 県は、県民をネット・ゲーム依存症から守るため、国に対し、乳幼児期からの子どもと保護者との愛着の形成や安定した関係の大切さについて啓発するとともに、必要な支援その他必要な施策を講ずるよう求める。

(引用元サイト:令和2年3月24日うどん県報(号外第1号)https://www.pref.kagawa.lg.jp/somugakuji/kenpo/2020index/2020/0324gj24.pdfより引用)

こんなアホな条例を作っておきながら、国に対して法整備を求めるというところが笑える。国が「ゲームは1日1時間!」とか言い出したら、それはそれで面白いのだが、その場合はパブリックコメント16連射で対抗すればよろしい。文面はコピペでOK。うどん県でその有効性は実証済みだ。

第2項のeスポーツは実に唐突だ。ここまでの流れで一切eスポーツに対して触れられていないし、この後にも一切出てこない。「なんか最近ゲームをスポーツとして扱おうという妙な流れがあるから、どっかで触れておく必要あるんじゃないか?」というわけで入れたのではないかと勝手に推測。eスポーツのプロになるとか口で言っているのに、ただ単にゲームしかしない、というのであれば、それは法で規制することではなく、それこそ家庭内の問題であろう。

第3項は前回も同じ内容の部分があったので、ここでは割愛する。

関係者の役割(第9条~第11条)

第9条は県民の、第10条は市町の、第11条は事業者の役割について記載されている。

第9条 県民は、ネット・ゲーム依存症に関する関心と理解を深め、その予防等に必要な注意を払うものとする。

2 県民は、社会全体で子どもの健やかな成長を支援することの重要性を認識し、県又は市町が実施する施策に協力するものとする。

 (市町の役割)

第10条 市町は、県、学校等、保護者、ネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等と連携し、ネット・ゲーム依存症対策を推進するものとする。

(同資料) 

一般的な意味としてこの内容を額面通りに受け取るのであれば、この第9条、第10条の内容にケチをつけることはない。この2つの条文で癌となっているのはたった3文字だけだ。第9条第2項の読点の後、「県又は」である。ネット・ゲームについての認識がズレているうどん県の施策に従ってはならない。

さて次は事業者の役割を規定した第11条。

第11条 インターネットを利用して情報を閲覧(視聴を含む。)に供する事業又はコンピュータゲームのソフトウェアの開発、製造、提供等の事業を行う者は、その事業活動を行うに当たっては、県民のネット・ゲーム依存症の予防等に配慮するとともに、県又市町が実施する県民のネット・ゲーム依存症対策に協力するものとする。

2 前項の事業者は、その事業活動を行うに当たって、著しく性的感情を刺激し、甚だしく粗暴性を助長し、又は射幸性が高いオンラインゲームの課金システム等により依存症を進行させる子どもの福祉を阻害するおそれがあるものについて自主的な規制に努めること等により、県民がネット・ゲーム依存症に陥らないために必要な対策を実施するものとする。

3 特定電気通信役務提供者(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情の開示に関する法律(平成13年法律第137号)第2条第3号に規定する特定電気通信役務提供者をいう。)及び端末設備の販売又は貸付けを業とする者は、その事業活動を行うに当たって、フィルタリングソフトウェアの活用その他適切な方法により、県民がネット・ゲーム依存症に陥らないために必要な対策を実施するものとする。

(同資料)

いやー、これはひどい内容だ。第11条に挙げられている業務を行っている企業は、香川県内へのサービス提供において常に条例違反となるリスクを抱えるというわけだ。第2項の「自主的な規制」という言葉が大変いやらしい。要は明確にダメと言ってしまうとその企業の経済活動に支障が出てしまい、裁判沙汰になりかねないので、あくまでも自主的な規制という表現に留めたのだろう。もし約束を違えれば…わかっておろうな?という野上典膳もかくやと言う悪代官ぶりだ。

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野上典膳(成敗より)

また、第2項、第3項と続けて、「県民がネット・ゲーム依存症に陥らないために」と大変な鼻息だが、逆に考えれば「自分のトコの県民は、そのくらいの分別もつかないのだ」ということを主張しているような気がしないでもない。

正しい知識の普及啓発等、予防対策等の推進、医療提供体制の整備、相談支援等、人材育成の推進、連携協力体制の整備(第12条~第17条)

やってまいりました。ブーメランすぎる第12条。

第12条 県は、県民がネット・ゲーム依存症に陥ることを未然に防ぐことができるよう、必要な情報を収集するとともに、オンラインゲームの課金システムその他のネット・ゲームに関する正しい知識の普及啓発及び依存症教育を行う。

(同資料)

まずは県が正しい知識を身につけることが先決なのは言うまでもない。

第13条 県は、市町、学校等、保護者、ネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等と連携し、県民がネット・ゲーム依存症に対する理解及びネット・ゲーム依存症の予防等に関する知識を深めるために必要な施策を講ずる。

第14条 県は、ネット・ゲーム依存症である者等がその状態に応じた適切な医療を受けることができるよう、医療提供体制の整備を図るために必要な施策を講ずる。

第15条 県は、ネット・ゲーム依存症である者等及びその家族に対する相談支援等を推進するために必要な施策を講ずる。

第16条 県は、医療、保健、福祉、教育その他のネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者について、ネット・ゲーム依存症に関し十分な知識を有する人材の確保、養成及び資質の向上のために必要な施策を講ずる。

(同資料)

すべて必要な施策を講じられる(受身形)の間違いではないのか。

第17条 県は、第12条から前条までの施策の効果的な実施を図るため、市町、学校等、保護者、ネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等の間における連携協力体制の整備を図るために必要な施策を講ずる。

(同資料) 

連携協力体制がネットだったら面白いな。未成年はそうした業務に従事できないわけだ。あるいは1時間限定で従事するのかもしれないが。

子どものスマートフォン使用等の家庭におけるルールつくり(第18条)

次は家族会議の内容にまで踏み込んだ画期的(笑)な条例だ。

第18条 保護者は、子どもにスマートフォン等を使用させるに当たっては、子どもの年齢、各家庭の実情等を考慮の上、その使用に伴う危険性及び過度の使用による弊害等について、子どもと話し合い、使用に関するルールづくり及びその見直しを行うものとする。

2 保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。)に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければならない。

3 保護者は、子どもがネット・ゲーム依存症に陥る危険性があると感じた場合には、速やかに学校等又はネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等に相談し、子どもがネット・ゲーム依存症にならないよう努めなければならない。

(同資料)

なんか小学校のクラス運営みたいだ。半紙にでも書いて家の壁に貼っておけ、と言わんばかりの内容である。「努力」だの「すばらしい朝」といった習字の課題の横にルールが飾ってある様を想像してしまった。

第1項で家族でルールを作ることと言っておきながら、第2項でいきなりルールを提示してしまうところも素晴らしい。また、義務教育修了までの子供(15歳以下)とそれ以外(19歳以下)のネットの使用期限が1時間しか違わないのも笑える。学習に必要な検索等については制限外としているが、勉強に集中するために音楽をストリーミング再生している場合は制限に引っかかるのかね(音楽を聴くことが学習効果を高めるかは別として)?そもそもの話、依存症につながるようなコンピュータゲームの利用は規制するくせに、ゲームではないインターネットの時間規制がないのも意味がわからない*1SNSによる関係性依存のために、常にLINEやtwitterを除いたりすることは、今回の条例の対象外なのだろうか。こちらの方がイジメや援助交際などの犯罪リスクが高いのでは。あっ、依存症につながらないゲーム利用も存在していて、そちらは時間規制の対象外なのかもしれぬ。

第3項もものすごい内容だ。依存の危険性を親が感じれば、各所に相談しなければならないという。「ウチの子供が平日2時間もゲームするんですぅ~」「スマホばっかみて私の言うことなんて聞かないんですぅ~」といった内容を聞かされる学校や相談所はいい迷惑だ。そもそもこうした規制が、隠れてプレイする等のゲーム依存症的な行動を誘発する。禁止されればやりたくなるのは人の性であろう*2。まして覚醒剤のように法で禁止されるに足るデメリットがゲームにあるように見えないだけになおさらである。

財政上の措置(第19条)

この条例だけは、ネット・ゲーム依存症の定義以外に疑問符をつけるべき文言はない。もっとも、他にもっとカネをかけるべきところはあるとは思うが。

第19条 県は、ネット・ゲーム依存症対策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努める。

(同資料)

実態調査(第20条)

 いよいよ最後の条文である。ツッコミ箇所が多くていささか疲れた。

第20条 県は、子どものネット・ゲーム依存症対策を推進するため、この条例施行後3年間は毎年、その後は2年ごとに、本県におけるネット・ゲーム依存の実態に関する調査を行う。

(同資料)

実態調査は大いに結構だが、パブコメ捏造の前科があるので、その調査が適切に行われているか、結果が歪曲されていないかをうどん県民は注視すべきであろう*3。それこそ無駄なカネが使われることは目に見えている。こうした“調査”は単純な集計とおざなりなコメントだけで数十万~数百万円かかる。おれ自身、仕事しない何とか総研みたいなところが法外な値段で適当な仕事をするのを目の当たりにし、すべてこちらでレポートを書き換えた苦い経験がある。集計だけでこうしたカネが出ていくことに加え、全数調査にするにしろ標本調査にするにしろ、一般市民を対象にした調査であれば必要経費は数百万といったところだろうか*4

で、結局ボードゲームへの影響はどうなのか?

いかにこの条例が世紀末における1万円札ほどの価値もない*5かがよくわかったかと思うが、今回のテーマはあくまでもこの条例がボードゲームに及ぼす影響の考察である。

結論から言って、オンサイトで行うボードゲームは、それがどういうテーマであれ、何時間であれ条例には引っかからない。なぜならこの条例のターゲットはあくまでもインターネットやスマートフォン、それらを媒体とするコンピュータゲームであって(第2条)、アナログゲームはその対象外だからだ。うどん県民は安心してボードゲームをプレイしてもらいたい。

一方で、やってることはアナログと同じでもBGAのようにオンラインで行うボードゲームは規制の対象となる。ネットやコンピューターを介すと、途端に依存症のリスクが跳ね上がるらしい(根拠なし)。スマートフォンのアプリを使う「Doctor Panic(ドクターパニック)」はグレー。この条例を作るのに躍起になっていたうどん頭どもにしてみれば、スマホを使うよくわからんものはなんでもNGだと思うが。学習に必要な検索“等”については時間の縛りがないということなので、「Through the Ages(スルージエイジズ)」や「Jenseits von Theben(テーベの東)」は学習用ですッ!と言えばなんとかなるかもしれない。また、学習の定義がなされていないので、プログラミング学習の一環として思考ルーチンやアルゴリズムを研究するためにプレイしてます、と言えば何でもOKになりそうな気がする。

なんにせよ、こんな条例が(たぶん)大真面目に審議され、正式に施行されるなんてのは恥以外の何物でもない。それに、大変な鼻息で「ネット・ゲーム依存症は我が県だけの問題じゃなくて国を挙げて取り組むべき!」なんて言われてしまうものだから、おれは「我が県のみならずゥ!西宮みんなの、日本中の問題じゃないですかァ!そういう問題ッを!解決したいがためにィ!おれはねえ、誰がねェ!誰に投票しても、おんなじや、おんなじや思って!(中略)このおれが、この世の中を変えたいッ!」と絶叫した某市議会議員Nを思い出しちまったぜ。いや、うどん県の議員はNを笑えないよ。ほんと。

cteam.hatenablog.com

 

(※2020年6月20日追記)

ポーランドの国民教育省は人文科学、社会学、倫理、哲学、歴史を学ぶ学生向けの推薦図書にゲームを指定したそうだ。シビアなテーマだけにレーティングは18歳以上となっているのは仕方がないが、今後、より拡大しそうな印象を受ける。

ポーランド首相曰く、若者は読書とゲームは特定の状況を想像するツールという意味で遜色なく、ゲームを教育システムに組み込むことでより想像力を豊かにするといった趣旨の発言をしているようだ。どこかのうどん県とはえらい違いと言わざるを得ない。

ちなみにポーランド国民教育省は、1773年に創設された世界初の教育担当省庁の国民教育委員会の流れを汲んでいるらしく(wikipedia)、由緒正しいこうした団体が先進的な試みをするということは特筆に値する。古い組織は得てして保守的(といえば聞こえはいいが、単なる頑迷、思考の硬直である)になりがちだが、歴史があるからこそ新しいことにも目を向けるという気概は素晴らしいと思う。

automaton-media.com

*1:用語の定義(第2条)と第2項の内容をつぶさに確認すると、夜9時(または10時)までなら四六時中スマートフォンを眺めていてもよいことになっている。

*2:俗に言うカリギュラ効果である。

*3:もっとも、行政やマスコミが行う調査は大抵が結論ありきであり、質問項目自体にバイアスがかかっていることがほとんどである。

*4:参考までに、うどん県の隣のみかん県で行われた、企業を対象としたアンケート調査は仕様書ベースで300万円弱であった(参考:「女性活躍推進に関する県内企業意識アンケート調査業務委託」仕様書

*5:ケツを拭く紙にもなりゃしないということだ。