ボードゲーム「蒼き狼と白き牝鹿 元朝秘史カードゲーム」

ボードゲームに関する評価のポリシーについてはこちらを参照のこと。

基本情報

ゲームの概要

前回の記事でほんの少しだけ光栄のチンギスハーンの話を出したので、今回は知る人ぞ知る(というかほとんど知名度のない)チンギスハーンのカードゲームを紹介したい。

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表パッケージ。
「資源で未来を開拓するロマン」という某ゲームのキャッチコピーに迫らんばかりの「チンギス・ハーンの激動の生涯がここに──」とかいうアオリがあるが、ゲームの内容を知ったら草葉の陰でチンギスも砂を噛むであろう。

ゲームの概要を一言で表現するならば、いわゆるミル・ボーンズに近い形式のゲームだ。ミル・ボーンズは手札から距離カードを出していき、最終的にぴったり1000マイル走破したプレイヤーが勝利するゲームだが、こちらは距離ではなく手札から国力となるカードを出していき、最終的に国力が一番高いプレイヤーが勝利する。ミル・ボーンズでは最初に距離カードを出すためには青信号カードを出さねばならなかったが、このゲームもまた同じように国王カードを出さなければ国力カードを出すことはできない。

ミル・ボーンズは距離カードを出すだけではなく、相手を妨害するカードや妨害を排除するカード、そもそも妨害を受けなくなるカードといったものがあったが、本ゲームも同じ。ただ、ミル・ボーンズとは違い、競うのは「国力」であるため、「国力」を奪うこともできる点が異なる。が、まあ大体においてシステムは同じだ。

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カード一覧。左から、
「国王」「姫」「血縁将軍」「将軍」(一段目)
「国」「物資」「侵略」「略奪」(二段目)
「疫病」「奇襲」「裏切り」(三段目)
「回復」「逆襲」「遠征終了」(四段目)

カードの説明をしていこう。

「国王カード」はまず一番始めに出さなければいけないカード。これが手札になければ、スタートラインにすらつけず、ひたすら国王カードを引くのを待たねばならない。事前に旗揚げしておけよ。

「姫カード」は「血縁将軍」カードを出すために必要なカード。姫カード一枚につき、血縁将軍カードを一枚場に出せる。

「血縁将軍カード」「将軍カード」は、自分の国と物資を他プレイヤーに奪われないように守るカード。カードの数値分の国カード、物資カードを略奪から守ることができる。血縁将軍とただの将軍の違いは後述の「裏切りカード」の影響を受けるか受けないかの違い。

「国カード」「物資カード」はどちらも数値の分だけ国力を高めることができるカード。当然国カードのほうが高い数値がそろっているカードが多い(一方で物資の国力の下限は1000のため、日本の国力500よりも高い。13世紀の日本の国力の低さよ)。

「侵略カード」は将軍カードに守られていない国カードを1~3枚奪うことができる。ちなみに3枚奪える侵略カードは"大騎馬軍団”で、1枚しかないレアカードだ。

「略奪カード」は将軍カードに守られていない物資カードを1枚奪うか、姫カードを1枚奪うカード。血縁将軍を場に出しているときに、対応する姫カードを奪われた場合は、再び別の姫カードを出さない限り、その血縁将軍の防衛力は0になる。姫を奪われてやる気なくなっちゃうのだろうか。

「疫病カード」は他プレイヤーの将軍カードにつける。これがあると「回復カード」を出さない限り、その将軍の防衛力が0になる。

「奇襲カード」は他プレイヤーにつける。これがあると「逆襲カード」を出さない限り、国カード、物資カードを出すことができなくなる。

「裏切りカード」は血縁将軍ではない、そのプレイヤーの将軍カードをすべて奪うことができる。血縁将軍が絶対に裏切らないというオリジナルゲームの特徴を出したいのはわかるが、ちょっとやりすぎじゃあないですかね*1

「回復カード」「逆襲カード」は前述の通り。

「遠征終了カード」は、これを出したらゲーム終了というカード。ただし選択ルールでこのカードを抜き、山札が尽きるまでゲームを続行することもできる。

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プレイの例。
姫がついているのが防衛力5000の血縁将軍で、国力5000のモンゴル帝国を守る。
防衛力3000の将軍は金国(2500)と日本(500)を守る。
防衛する対象はいつでも変えていいらしいが、"手番中に限り”という条件を付すべきだ。

プレイの流れとしては、

  1. 手札を6枚持つ
  2. 手番プレイヤーは山札を1枚引く
  3. カードを1枚場に出す。出せない場合は1枚捨札にする
  4. 山札が切れるまたは遠征終了カードが出されなければ、次のプレイヤーに手番が移る
  5. 繰り返す

という単純なもの。面白いゲームかと言われたら、「面白くはない」と答えるだろう。下敷きにしているミル・ボーンズ自体がほぼカード運であって盛り上がりに欠けることに加え、箱のアオリのような激動を感じることもない。

  • 国王カードが無意味
  • 国カードの特色なし
  • カードの少なさ
  • 遠征終了カードの存在

これらがその理由であろう。蒼き狼シリーズは知らなくても信長の野望三国志を知らない人はあまりいないであろう。これらのゲームは、史実にある程度基づいた、様々な人材を操って歴史のIFを体験する点にその魅力がある。プレイヤーは「おー、やっぱこの将軍つえー」だとか「こんなに能力高いのに無能な君主に仕えたばかりに…おれがその無念を晴らしてやろう」といった脳内妄想をふくらませながら、"なりきりプレイ”がしたいのだ。それには可視化された能力が必要なのだが、このゲームにはそれがない。将軍の能力だけは可視化されているが、将軍カードに名前が書いてあるわけではない。逆に国王カードには名前があるだけで能力が書いていない。これでは感情移入もできまい。

国カードも物資と同じ扱いのため、制限なく場に出すことができる。ゆえに、アイユーブ朝サラディンの下にイングランドと日本の国カードが置かれるなんて状況がよく起きる。しかもそんな状況で吐蕃チベット)を治めている源頼朝が侵略カードでイングランドを奪っていくということも。どういう現象だ。

カードの少なさも致命的だ。将軍・血縁将軍カードは6枚ずつ、計12枚しかない。姫カードは6枚だ。国カードは19枚はあるが、将軍の数とバランスがあわない*2。そして国力の奪い合いを演じる侵略カードは全10枚、略奪カードは6枚。妨害カードも3枚とか2枚なので、カードを打ち合ったりするような場面はあまりなく、ただ淡々とカードを出し合うだけのゲームになってしまっている。

遠征終了カードでゲーム終了、という乱暴すぎる終了トリガーがあるため、遠征終了カードを持ったまま先に突っ走るプレイが圧倒的に有利だ。略奪や侵略といったシステムは後出し有利なので、どうしても溜め込んだり、将軍を揃えて守りを固めてから出す、という状況になりがちなので、ポンと国力の高いカードを出し、次のターンで終了、というプレイができてしまう。興ざめ甚だしい*3。こうした状況を防ぐために遠征終了カードを抜く選択ルールがあるのだと思うが、それはそれでプレイが間延びして苦痛だ。せめて山札を2つにし、どちらか一方にカードを入れておいて、カードが引かれた瞬間終了、というルールにすべきだろう。

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パケ裏。こちらにも威勢のいい文言が並ぶ。「一瞬の気も抜けない」は「一瞬も気の入らない」の間違いではないだろうか。鍵は「血の絆」(=血縁将軍は裏切らない)とあり、たしかにPCゲームではそうだったが、このカードゲームでは将軍の姫に手出しができてしまい、結果として無力化する以上、頼りにはならない。

正直、この内容で2800円はちょっと…このゲームは光栄カードゲームシリーズと銘打たれているが、ナイトライフ団地妻の誘惑といったアダルトゲームと同様、かの会社の中でもはや存在がなかったことにされているようだ。そうした意味では、場末の当サイトであっても、光栄としては記事として採り上げられたくはないコンテンツなのかもしれない。

*1:写真の将軍カードのはモンゴルの将軍であるスブタイだが、彼は四狗として一度も裏切ることなくテムジン(チンギス)、オゴタイに仕えたのだが…

*2:ちなみに国王カードは10枚もある。スタートの足踏みをできるだけさせないためだろうが、それなら最初からそのルールを撤廃すべきだ。

*3:しかも遠征終了カードは2枚もあるのだ。