雑感「都道府県魅力度調査なるもの」

日本人はとかくランキングが好きだと言われる。なに、これは日本人に限ったことではなく、人間全般にみられる特性なので、このこと自体は特に卑下するものでも否定するものでもない。日常生活においては絶対評価よりも相対評価のほうが判断として自然に使われるからだ。いや、日常生活だけではなく、しばしば重要な判断においても相対評価をしてしまうために起きる問題も決して少なくはない。それでも人間が相対評価をしてしまうのは、評価のために費やすリソースが少なくて済み、かつすばやい判断が可能だからであろう。

まあそんなことはどうでもよくて、今回のテーマは先日発表された都道府県魅力度調査なるものについて、思うところを書いていく。

そもそも都道府県魅力度調査とはなんなのか

まずはじめに、おれ自身は都道府県魅力度調査について、何の興味も感慨もない。自分のゆかりの地が1位だろうと最下位だろうと、それこそ80歳を超えたセクシー女優ほども関心をもたない。まずもって「魅力」を定量化することは現実的ではない。せいぜい「ある一つの観点において他よりも秀でている」というレベルの話である。

一応この調査を実施したブランド総合研究所の本調査の特設ページをざっと見てみた。ひと目見ただけで、やはりというか、「お祭り的な何か」でしかないことがわかる*1。正式な調査レベルに達していないとおれが判断する理由を逐一挙げるのはきりがないのでここでは割愛する*2

調査会社としては地域PRビジネスを展開しているから毎年こういった調査(もどき)を実施しているわけで、地域振興の手段として一般消費者向けにわかりやすい「旅行」を軸にしているのは明白である。「魅力」が観光よりになっているのは項目を見ればすぐわかる。

調査に対する過剰な反応をする人たち

この記事でクローズアップしたいのは、こうしたくうだらない調査のことではなく、調査の結果について一喜一憂する残念な行政だ。いや、一憤一憂といったほうがよいだろうか。つまり調査結果について騒ぎ立てている自治体は最下位に近い自治体ばかりということだ。2020年の結果で言えば、万年最下位と一般には認識されている茨城県が42位になり、栃木県が最下位に沈んだ。その栃木県知事の行動は調査会社に直に意見を申し入れるというもの。

www.yomiuri.co.jpバカなのか。お祭りに文句つけるほど無粋なことはない。それにこの調査結果自体が何かしら県の不利益につながるのか甚だ疑問だ。「今度旅行しよーよ」「いいね。どこにする?」「日光とか行ってみたーい」「温泉もあるしね」「でも都道府県の魅力は最下位だよ?」「えー、じゃあやめよー」となるだろうか。申し入れ内容もよくわからない。注釈にも書いたが、サンプル数を増やしたところで問題となるのは回収率のほうだし*3、そもそも調査のやり方や各項目が互いに関連していることの回答バイアスがてんこ盛りになっている時点でアヤシイ調査(文化祭のアンケートレベルである)なのだから、そもそも論点が違うだろう。「この調査はやりかたがオカシイ」と言わなくなるのは何位くらいと考えているのかね。

次は群馬県知事。

news.yahoo.co.jp2020年度は過去最高の40位になったが、下位に甘んじていることが不満で、わざわざ専門家チームを作って信頼性・妥当性の検証を行うそうだ。こんなちょうさにまじになっちゃってどうすんの、という言葉を贈りたいところだ。じゃあ何位だったら満足するのかね、と問いたい。

ブービー賞の徳島県や45位の佐賀県の知事のコメントは現段階では特に見つからなかったが、まあそれが普通の反応だろう。

中には、「上位の都道府県は観光客も多い。ゆえにこの調査の影響力は無視できない」と主張する人もいるかもしれないが、はっきりってそうではない。因果関係が逆である。前述のように、この調査自体が地域おこしビジネスのためのPR資料でしかないわけで、観光よりの内容になっているわけだから、当然上位にくるのは観光客が多い地域に決まっている。だがそれも最上位の地域のみで、中間順位の府県については毎年順位が頻繁に入れ替わっている。特に各府県が積極的な取り組みをしたということや、何か事件が起きたとか、魅力度に関する要因が変化したのでなければ順位の変動の説明がつかない。つまり回答者によるブレ、言い換えれば単なる誤差でしかないと思う。

正しい反応とは

こうした調査に対する正しい反応は、徳島や佐賀のように無視を決め込むことではあるが、ワーストとなることで話題になるのであれば、これを利用しない手はない。なんかちょっと変わったことを行政がするとすぐに話題になるSNS全盛の昨今において、これは絶好の自虐ネタであろう*4。栃木県知事のように「ランキングは間違いだ。実際に来て確かめてほしい」ではなく、「ランキング最下位の実力、刮目して見よ!」とかいうほうが確実に話題になり、好感度も上がるに違いない。政治家(に限ったことではないが)には鷹揚でユーモアのセンスが求められ、それが魅力であると常々おれは思っているのだが、これらの知事にはそれが欠けているとしか思えない。そういった意味では、今回の調査結果は知事の魅力度を映し出してしまったのかもしれない。

*1:実施会社にしてみれば大真面目に「各地域の現状を多角的に分析できます」とか言っているが、調査の信頼性、妥当性が乏しいので、これを使って分析したものが何かの役に立つのかと言われると疑問である。

*2:一例を挙げるなら回答数は書かれているが回収率が書かれていない点が、そもそもこの調査そのものの信頼性に疑念を抱かせている。それに回答の負担が大きいとはいえ、そもそも回答者が47都道府県全部に回答するのではなく、20都道府県しか回答しないという点でおかしい。

*3:蛇足だが、統計学上、どれくらいのサンプルを集めれば信憑性がある結果と言えるか(サンプルパワー)を検証することができる。

*4:魔夜峰央の翔んで埼玉くらいの本気度でやればよろしい。