雑感「K2の冬季初登頂に寄せて」

以前この記事で登山について書いた。この当時は8000m峰のうち、K2だけが冬季未登頂であったが、先日ネパールの登山隊によってついに登頂が達成されたらしい。

hypebeast.com

この記事は数ある記事の中でもひとつの記事にすぎないが、日本人向けのメディアらしく、登頂にあたって「アタック」という用語が使われているのは残念(以前の記事に書いた通り、現在では「プッシュ」という用語が標準である)。他にも登山にあまり詳しくない人が他メディアのニュースから情報を拾って書いたんだろうなーと想像のつく記事ではあるが*1、それはひとまずおいておこう。

第一報を見たときに小さな違和感を感じたのだが、その後の報道で違和感の正体がわかった。それは「ネパール隊」という登頂隊の所属だったのだ。高所登山のサポート(荷物の上げ下ろしやルート構築等)としてシェルパの名前を聞いたことのない人は少なくないと思う。シェルパはネパールの少数民族で、高所に住んでいるため、こうした高所登山において無類の強さを発揮する。実際にエヴェレストの頂きに最初に立ったのはイギリスのヒラリーとシェルパのテンジンであった。だが、この事実を見ても、ネパールのテンジン、という表現を見たことがなく、あくまでも国籍ではなくシェルパという民族としてのテンジンであった。

ネパールは南北の間で標高や地形が急激に変化するので、全てのネパール人が高所に強いわけではないと思うが、全14座ある8000m峰のうち8座を擁する国であり、古くから山岳信仰のある国ゆえに、山への思いは強い。しかしながら、信仰の対象となってもそこに登ることに、さほど意味を見いださず、商売として登山客のサポート以外に登山する意味はないと考えるのがネパール人の一般的な思いだった。だから、今回のように「ネパール隊」が登頂成功した、ということに違和感を抱いたのだ*2(これらの点についてはこの記事でより詳しく記載されている)。

今回の偉業によって、8000m峰における「わかりやすい」未解決の課題は解決されたと言える。もちろんK2の西壁とかダウラギリの南壁といった未踏ルートは残っているが、8000m峰に関しては、初期の高所登山における未踏の地への冒険という側面での役割を終えたのではないかと思う。

今回のニュースを受けて、当然のことながらボードゲーム「K2」を冬用の面でプレイしたわけだが、天候とリスクトークンに恵まれない限りは絶対無理。ましてプレイ人数が増えれば予期せぬ渋滞が発生するので、順応ポイントがガリガリ削れるし0のリスクトークンがどんどん消費されるし、息苦しいことこの上ない。単純化されているとはいえ、K2の登山シミュレート度がかなり高いことを、今回改めて感じた。

K2と拡張のBroad Peak。

それにしても、神がかったタイミングでK2ビッグボックス(最高峰エディション)が販売されたものである。第2刷が出たら、ルールブックの「未だに冬季登頂者はいない」という記述が更新されるのだろうか。

*1:文末の「今回の登頂を機に少しでも安全なルートが確立されてほしい」という箇所は登山家がみたら怒るのではないか。数々の挑戦を跳ね除けた冬季のK2が、1回登られただけで安全なルートが確立されるわけがない。エヴェレストのように挑戦者が膨大な人数がいて、ベースキャンプの整備が進まない限りは不可能である。特にK2はカラコルムの奥地にありアクセス自体悪いので、そうした意味でも記事のライターの言う”安全なルートの確立”は夢であろう。

*2:とはいえ、今までの高所登山で「ネパール隊」が皆無であったわけではない。