ボードゲーム「Potato Man(ポテトマン)」

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基本情報

  • Potato Man(ポテトマン)
  • Günter Burkhardt,Wolfgang A. Lehmann
  • 2人~5人(だが、ゲームシステム上、4、5人じゃないと…)
  • 40分
  • 2013年
  • 言語依存なし

ゲームの概要

トリックテイキングというゲームのジャンル(メカニクスとも言える)がある。WindowsのPCのアクセサリにある無料ゲームで「ハーツ」をやったことがある人はわかると思うが、その手番に親となるプレイヤーが出したカードに従って、順番にカードを出していき、全員が出したらルールに則ってその場に出ているカードを取っていくのを基本システムとするものだ。トランプゲームの「ハーツ」を例にとると、親がまずカードを出す。次のプレイヤーは、親の出したカードのスートが手札にあれば、必ずそれを出す。なければどのスートを出してもよい。これを順番に行い、一巡したら、親の出したスートの中で一番大きな数を出したプレイヤーが、今の一巡で出されたカードをすべて持っていく(これをトリックをとる、と言う)。すべての手札を使い終わったら1ラウンド終了。集めたハートのカード1枚につきマイナス1点、そしてスペードのQがマイナス13点となる*1。「ハーツ」の場合は親の出したスートにできるだけ従わなければならない(これをフォローと言う)ので、マストフォローという。それに対して必ずしも従わなくてよいルールの場合はメイフォローという。また、親の出したスート以外のものを出さなければならないのをマストノットフォローという。

前置きが長くなったが、このポテトマンもトリックテイキングのシステムで、作者はトリックテイカーことブルクハルト。トリックテイキングの種類としてはマストノットフォロー(5人プレイの場合のみ1度だけメイフォローできる)のゲームだ。本ゲームのスートは4つで黄、緑、青、赤という色で区別される。各カードには数字が1つ書かれていて、場に出たカードのうち、一番大きい数字を出した人がトリックを取ることになる(同じ値の場合は後に出した人がトリックを取る)。ただし、ここでは出されたカードを回収するのではなく、自分が使った色のカードに対応した得点カードを獲得することができる(使用したカードは捨て札となる)。

数字には優劣がないが、色によって数字の範囲が異なっていて、

  • 黄:1~13
  • 緑:3~14
  • 青:4~16
  • 赤:5~18

となっている(各色で数字の重複はない)。そのため、14以上の数値を出されたら、まず黄のカードではトリックを取ることができない。一方で、トリックを取った場合の得点は、

  • 黃:4点
  • 緑:3点
  • 青:2点
  • 赤:1点

というふうに、トリックの取りやすさと反比例するような設定となっている。ただ、トリックを取った色に対応する得点カードがすでに尽きている場合*2は、5点のカードを取ることができるため、勝ちやすい赤が序盤に集中した場合に、最後のあたりまで赤を温存できれば大量得点のチャンスだ。もちろん、これだけでは単純に赤や青の強いカードをたくさん持っているだけで楽勝なのでしらけてしまう。ルールの話をもう少し続けよう。

下段が数値カード。中段がそれぞれの色でトリックを取ったときの得点カード。ついでにその色のカードの取りうる数値も記載されている。上段は得点カードが尽きたときのボーナス得点カード。カードに描かれている袋の数が得点となる。

マストノットフォローの妙味

ゲームの特徴はマストノットフォローということ。最初にカードを出す親には出せるカードの制限がない。親の次に出すプレイヤーは、親の出した色以外のカードを出さなくてはならない。つまり、今場に出ている以外の色のカードしか出せないわけだ。こう書くと出すカードに制限のない親が強そうに思えるのだが、同じ数値のカードが出ている場合は後出しプレイヤーのほうが強いので、親の立場は非常に弱く、親で連続してトリックを取るのはなかなかに難しい。そして4番手のプレイヤーは、出せる色に選択肢がないので親よりも立場は弱い。4人プレイの場合は3番手のときが選択肢が残っている(4番手の選択肢を限定させる)こと、同値のときに後出し有利な点から最もトリックを取りやすいチャンスと言えるだろう。

ここで、「あれ、このゲーム4色しかないけどマストノットだったら5人プレイはできないんじゃあ?」と思った人は正しい。5人プレイの場合は、1枚だけ重複する色を出しても良いのだ。そのため、4人プレイの4番手は選択肢が常に限定されていたが、5人プレイの5番手は、先行プレイヤー達が1枚も重複する色が出ていなければ、あらゆるカードを出すことができ、一番有利になる*3。ついでに言えば、5人プレイのときは同様に選択肢に幅のある4番手もかなり有利である。しかしながら、このルールであっても赤にしかない18や17を出せば必ずトリックを取れてしまうから、やっぱり親になってひたすら大きい数字を出せばいいんじゃないの?ルールの話をもう少し続けよう。

史上最弱が…最も最も最も最も(中略)最も恐ろしいィィポテトマーン!

このゲーム、基本的にはカードのデザインは色ごとに決まっているが、黄の1~3と赤の16~18のカードは特殊なカードとなっている。前者はパケ絵にもなっているポテトマンであり、後者はピーラーの武器で武装した見るからにワルいポテトキラーである。

ポテトマンとポテトキラー。右は通常のカード。

普段はひ弱なモヤシ野郎であるポテトマン(芽まで生えとる)、宿敵のポテトキラーと同時に場に出ている時は、数値的に圧倒しているポテトキラーを倒すことができるのだ(よく見るとポテトマンの持つフォークの先にはポテトキラーが刺さっている)。逆に言えば、ポテトマンはポテトキラーにしか勝てないのだが、このルールがあるために、親や2番手のときにポテトキラーを出すのは(自分がポテトマンを独占していれば別だが)かなり無謀な行為となる。ポテトマンを極めるのはなかなか難しいのだが、これが極まると自然に「ポテトマーン!」と叫んでしまうくらいに気持ちがいい。そしてポテトマンは黃カードであるため、これでトリックを取るということは、それだけで4点。赤でトリックを取っても1点にしかならないわけだから、ポテトマンを持っていたら狙うしかない。ポテトキラーを持っているプレイヤーは、いかにポテトマンにやられずにポテトキラーを通すか、まるで某賭博黙示録マンガのEカードのような緊張感を強いられるのである*4。そしてこのゲームにはもうひとつ駆け引きの要素がある。最後のルールを見てみよう。

ポテトマーン!!赤を出した3番手は、ポテトマンの残りが1枚だったのでワンチャン通るかと思ったらしい。

ゲーム終了は「誰かがノットフォローできなくなった」タイミング

ゲームのセットアップでは、4人プレイで12枚ずつ、5人プレイで10枚ずつだ*5。ハーツでは手札を使い切ったらラウンド終了となるのだが、このゲームでは「誰かがノットフォローできなくなった」タイミングで即終了である。だから、7トリック目あたりからマストノットの縛りによってさらに選択肢が絞られていくことになり、赤ならまだ出せるのに出せなくなってしまい、ノットフォローできなくなって即終了、ということが起こる。このルールがあるために、あまり偏った手札にするのは危険だし、ポテトマンが切れてからポテトキラーを出そうとしたら、その前に終了してしまった、という悔しいことも起きる。逆に、後半の親のときに、あえて一番最初にポテトマンを出し、選択肢がなくなってポテトキラーを出さざるを得なくなる状況(個人的にはこれを置きポテトマンと呼んでいる)も出てくる。後半の後手番では、「そこ緑じゃなくて青出してくれたら続いてたのに!」「き、黄色の13が無駄にィィィィィーッ!」「何をするだァー!許さん!」ということもしばしばで、勝負どころじゃなくても緊張を強いられる。手札に残されたカードのバランスを考えることで5人プレイの後半で4番手のプレイヤーが意に沿わぬ色のカードを出さざるを得なくなり、5番手がどの色でも出せる一番有利な状況を作り出してしまうことになることもしばしば起きる。

カードはイモくさくてもゲームはエレガント

あらゆる学問にある程度共通することだと思うが、法則や公式、証明はシンプルであるほどエレガントで美しい*6。このゲームも、トリックテイキングをメインのゲームシステムとしたものとしては、シンプルな部類に入ると思うが、味付けのしかたが絶妙で、全体としてエレガントに仕上がっていると思う*7。ゲーム慣れしているメンバーであれば間違いなく盛り上がる。そうでなくてもフルゲームを1回プレイすれば勘所がわかるので、面白くプレイできるはずだ。逆にゲーム慣れしていないプレイヤーには面白さがイマイチ伝わりきれない可能性がある。後手番のプレイヤーの選択肢を狭めるようなカードプレイといった駆け引きは、ある程度のゲーム勘が必要なのである。

パッケージとカード裏デザイン。イモすぎる。

現在は手に入りにくい状況のようだが(念のため言っておくが、プレミア価格で手に入れるほどではないと思う)、ぜひプレイしてもらいたいゲームである。

boardgamegeek.com

*1:なおここで解説しているのはハーツの中でも最も基本的なブラックレディと呼ばれるもののルールである。

*2:得点カードは各色3枚。

*3:そうでない場合は、当たり前だが5番手は選択の余地がなくなるため、一番不利である。

*4:ただこのゲームの場合、「刺すっ・・・・・!」というぬるりとした感じではなく、やっぱりポテトマーン!という明るい雰囲気がふさわしい。

*5:使われない何枚かのカードは箱に戻しておく。

*6:逆にコンピュータに全部計算やらせても結果がでなかったから、この定理は間違い、みたいな力技の証明はエレファントと称される。

*7:箱やカードのデザインを除く。ただ、これはデザイナーもわかってやっているので、リメイクされたとしてもこのイモくさい(まさに)デザインは残してもらいたいものだ。