ボードゲームの雑感「素材としてのヴェネツィア」

kickstarter発のボードゲーム「Ragusa」のレビューがちらほら上がるようになってきた。プロジェクトを見ていてキックしようかな~と思っていたが、当時は「Barrage」「Exploriana」をキックしていたので、面白そうな印象を持ちつつもスルーしていた。

kickstarterをチェックするときに、おれはゲームデザイナーとどれだけ資金が調達できているかを重視している。ところがこのゲームは、特に自分がプレイしたことのあるゲームのデザイナーでもなく、資金もそこそこにしか集まっていなかった(見た時には100%を超えていたが、ファウンディングゴール自体がそこまで高くなかった)。ではどこに引っかかったのか。それはずばりタイトルである。

ラグーザはドゥブロブニクと呼ばれるクロアチア港湾都市で、ラグーザはイタリア名だ。ゲームのタイトルがドゥブロブニクではなくラグーザとなっているのは、地中海貿易が盛んであった中世を舞台としているからである。

これがなぜ震えるぞハートしたのか(そこまでおおげさではないが)というと、おれは世界史の中でヴェネツィアという国家が一番好きだからだ。アドリア海の出口に近いこの都市は、当時のレヴァンテ貿易(東地中海を舞台とした貿易)で隆盛を誇ったヴェネツィア共和国にとって非常に重要な基地となっていた。またラグーザのあるダルマツィア地方は、本国の面積に限りがあって常に人員不足にあえぐヴェネツィアの重要な船員の供給源でもあった。オスマン帝国キリスト教連合軍が戦ったことで有名なレパントの海戦前夜には、ダルマツィア地方で発生した疫病のため船員が集められず、ヴェネツィアと他の国の間で揉め事になったほどだ。

ヴェネツィア共和国は貿易によって大をなし、その経済力と政治力、外交交渉で海洋帝国を作り上げた国である。この要素をとってみても、ボードゲーム要素満載といってもいいのだが、意外にも貿易に焦点をあてたゲームとしては、Leo Coloviniの「Golden Hornゴールデンホーン、金角湾)」(このゲームでヴェネツィアコンスタンティノープルの中間地点として存在するモドーネという港もまた、ヴェネツィアの重要な貿易基地である)と「Oltre Mare(オルトレマーレ)」(レヴァンテ貿易をテーマにした貿易&交渉ゲーム)くらいしか知らない。地中海の覇権を賭けた、「ヴェネツィアvsジェノヴァ」みたいなゲームがあってもいいような気がするのだが…もっとも貿易ネタとしては大航海時代の方がスケールがでかくてゲームにしやすいのかもしれない。

ヴェネツィアボードゲームとして扱われる場合は、町そのものが題材になることが多いようだ。ざっと挙げてみると、

  • Alex Randolphの「Venice Connection(ヴェニス・コネクション)」…運河のパズルゲーム。余談だが、Randolph先生は晩年はヴェネツィアに住んでいた。さらに余談だが、初版のヴェニス・コネクションは、タイルにヴェネツィアの運河の藻が使用されていた
  • Christian Fiore&Knut Happelの「Die Saulen von Venedig(ヴェネツィアの柱)」…ヴェネツィア誕生時をテーマに、干潟に材木を打ち込み、陸地化していくゲーム
  • Stefan Feldの「Rialto(リアルト橋)」…ヴェネツィアの運河に橋をかけてエリアを支配して影響力を増やすゲーム
  • Alan Moonの「San Marco(サンマルコ)」…ヴェネツィアの選挙区ごとに影響力を増やすゲーム

その他、町そのものが題材ではないが、

  • Colovini&Randolphの「Inkognito(インコグニト)」…ヴェネツィアを舞台にスパイ同士の諜報戦。ペア戦なのでほぼ4人専用。サイコロ替わりの警告の印(英語ではPhantom of Prophecy)が無駄に豪華
  • Simone Luciani&Daniele Tasciniの「Auf den Spuren von Marc Poloマルコポーロの旅路)」…ヴェネツィアから北京(歴史的には大都と呼ぶのが正しい)まで依頼をこなしながら移動するダイスプレイスメントゲーム
  • Coloviniの「Venezia2099(ヴェネツィア2099)」…海に沈んだヴェネツィアから宝を見つけるゲーム。Coloviniの作品が多いのは、ヴェネツィアが出身地であり、師匠のRandolphがヴェネツィアに住んでいたことからであろう。
  • Inka Brand&Markus Brandの「Muranoムラーノ島)」…ヴェネツィアングラスの工房を題材にした、依頼をこなして影響力をあげていくゲーム

などがある。ちなみに2019年9月の段階ではサンジョルジョ・マッジョーレ教会やらエアサプレーナ島が登場するゲームは探し出せなかった。あるとすればものすごいジレンマを伴うゲーム(「任務は遂行する」「部下も守る」両方やらなくっちゃあならないってのが「幹部」の辛いところだな)か、互いに相手を出し抜くブラフゲーム(「兵は詭道なり!」「よ…読めん おれはいつも戦うときは相手の気持ちとか心の動きを読んでそれを利用してきた…読まれているのはおれの方じゃあねえのか…」)であろう。

この記事に出てきた各ゲームの情報は以下を参照されたい。

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