ボードゲーム小論文「初心者向けボードゲーム教育カリキュラム作成の試み」

しばらく更新していないとコロナの影響で死したのではないか、と心配される方も全世界で0.3人くらいいるかもしれないので、生存報告の意味も込め、在宅勤務で普段より3時間ほど(通勤時間だ)増えた自由時間を使って初心者向けボードゲーム教育カリキュラムを作ってみようと思う。

 が、単なる初心者にお勧めするボードゲームリストでは、数あるクソまとめサイトと全然変わらないので、一応教育学の修士号を持つ身として、ブルームの「完全習得学習(マスタリーラーニング)」の考えをベースとして作ってみることにする。

「完全習得学習」とは、学校で授業を受ける児童・生徒のすべてが習得すべき技能、知識を各教育単元ごとに設定し、テスト等を用いてその習得度を測定、その習得度に応じたフォローを実施するというもの。これをボードゲームに当てはめ、一人前のボードゲーマーになるためにプレイすべきゲームとプレイする順番、プレイ時に気をつけるべき点、各単元で習得するボードゲーマーとしての技能、知識を設定しようというわけだ。

そのためにはまず「一人前のボードゲーマー」とは何なのかということから定義をせねばならない。これには様々な意見があろう。ボードゲームを買いあさり、積みゲーをいくつも持ってこそ一人前だという極端なことを言う人もいるかもしれないし、とりあえずその場で出されたゲームを嫌がらずにプレイできること、くらいのシンプルなボードゲーマー像を持つ人もいるだろう。
ハードルを上げすぎても下げすぎてもよくないので、ここでは以下の要素を満たす人物が「一人前のボードゲーマー」と定義してみる。

  1. ルールを聞いて勝利するための大まかな方針が立てられる
  2. 2時間級くらいまでのゲームであればとりあえずプレイできる
  3. 代表的なメカニクスについて理解し、説明ができる
  4. 初心者にルールの説明ができる
  5. お気に入りのゲームを人に紹介できる
  6. ドイツ年間ゲーム大賞(ほか各国のゲーム大賞)の存在を知っている

ひとつひとつ理由を説明しておこう。

1.ルールを聞いて勝利するための大まかな方針が立てられる

手なりで行き当たりばったりでプレイするのではなく、そのゲームを理解した上で勝利するためには何が必要かを考えることができるということだ。ゲーム感覚にすぐれた人でなくても、いろいろなゲームを経験することでこれを養うことができる。

2.2時間級くらいまでのゲームであればとりあえずプレイできる

このクラスのゲームはルールや考えどころが多く、ゲームそのものにストレートな魅力がないと、プレイするのにそれなりのハードルがある。それでもプレイできるということは十分一人前と呼べるとの判断だ。超重量級までいくとフリークの領域だが、そこまで求めるのは行き過ぎだろう。

3.代表的なメカニクスについて理解し、説明できる

一人前というからには、様々なゲームを経験しており、それを新しいゲームの理解にも活かせるということだ。それはゲームの肝を理解することとほぼ同じで、肝はメカニクスに近いところにある。よって、代表的なメカニクスを理解していることは、ボードゲーマーが備えるべき要件と言えるだろう。何を持って代表的なメカニクスとするかだが、ひとまず「ドラフト」「ワーカープレイスメント」「競り」「トリックテイキング」「デッキ構築」「正体隠匿」「バリアブルフェイズオーダー」「ロンデル」あたりを理解していれば十分だろう。

4.初心者にルールの説明ができる

これは何もすでにプレイしたゲームのルールをそらで説明できる、ということではない。既にプレイ済みか未プレイかに関わらず、そのゲームのルールを初心者に説明できるかどうかである。初心者に説明するということは、自分がまずルールを理解していなければならない。そのうえで、相手が理解できるように噛み砕いて説明する、という非常に認知的に高度なスキルが要求される。ついでに言えば、初心者が興味を持つようにそのゲームの楽しさも伝えられるということも重要だ。これは1.や3.の要素と高い相関を持つはずである。

5.お気に入りのゲームを人に紹介できる

お気に入りのゲームというからには、既にいくつものゲームをプレイしていることが前提であり、かつ、それぞれのゲームを何らかの基準で比較し、自分の中で優劣をつける行為である。好みが固まることは、それなりにボードゲームに求めるものがはっきりしてきているということだから、これができないうちはまだまだ人にやらされている、ということになる。

6.ドイツ年間ゲーム大賞(ほか各国のゲーム大賞)の存在を知っている

これは1.~5.までとは少し趣が異なるが、やはり一人前というからにはドイツ年間ゲーム大賞というものがあることくらいは知っていてもらいたいという思いから、これを入れてみた。ただ、何年の大賞があのゲームとか、そういう知識は求めていない。少なくともゲーム大賞というものが存在し、大賞を獲った、あるいは最終ノミネートまで残った作品のパッケージにはポーンを載せる権利があり(ノミネートは1年間だけだが)、ゲームを選ぶときの一つの参考になる程度の知識で十分だ。最も、一人前となるまでにプレイするゲームが、ドイツ年間ゲーム大賞と無縁なものしかないというのはちょっと考えづらい。また、2000年代からドイツのみならずフランスやオランダ、チェコなどでもゲーム大賞が発表されるようになったので、そうした点についても知識があればなお良いだろう。

これらの考えをベースとして、これから何回かに分けてボードゲーム教育カリキュラムをアップしていくので、気長にお待ちあれ。