(しばらく飛田展男の声でお楽しみください。)
諸君、私はマック・ゲルツが好きだ。
諸君私は、マック・ゲルツが好きだ。
諸君、私はマック・ゲルツが大好きだ。
続きを読む一瞬、自分が未来からきた人間なのではないかという錯覚を覚えた。何がそうさせたかと言うと、この記事を見たからだ。
続きを読む※ボードゲームに関する評価のポリシーについてはこちらを参照のこと。
トリックテイキングというゲームのジャンル(メカニクスとも言える)がある。WindowsのPCのアクセサリにある無料ゲームで「ハーツ」をやったことがある人はわかると思うが、その手番に親となるプレイヤーが出したカードに従って、順番にカードを出していき、全員が出したらルールに則ってその場に出ているカードを取っていくのを基本システムとするものだ。トランプゲームの「ハーツ」を例にとると、親がまずカードを出す。次のプレイヤーは、親の出したカードのスートが手札にあれば、必ずそれを出す。なければどのスートを出してもよい。これを順番に行い、一巡したら、親の出したスートの中で一番大きな数を出したプレイヤーが、今の一巡で出されたカードをすべて持っていく(これをトリックをとる、と言う)。すべての手札を使い終わったら1ラウンド終了。集めたハートのカード1枚につきマイナス1点、そしてスペードのQがマイナス13点となる*1。「ハーツ」の場合は親の出したスートにできるだけ従わなければならない(これをフォローと言う)ので、マストフォローという。それに対して必ずしも従わなくてよいルールの場合はメイフォローという。また、親の出したスート以外のものを出さなければならないのをマストノットフォローという。
前置きが長くなったが、このポテトマンもトリックテイキングのシステムで、作者はトリックテイカーことブルクハルト。トリックテイキングの種類としてはマストノットフォロー(5人プレイの場合のみ1度だけメイフォローできる)のゲームだ。本ゲームのスートは4つで黄、緑、青、赤という色で区別される。各カードには数字が1つ書かれていて、場に出たカードのうち、一番大きい数字を出した人がトリックを取ることになる(同じ値の場合は後に出した人がトリックを取る)。ただし、ここでは出されたカードを回収するのではなく、自分が使った色のカードに対応した得点カードを獲得することができる(使用したカードは捨て札となる)。
数字には優劣がないが、色によって数字の範囲が異なっていて、
となっている(各色で数字の重複はない)。そのため、14以上の数値を出されたら、まず黄のカードではトリックを取ることができない。一方で、トリックを取った場合の得点は、
というふうに、トリックの取りやすさと反比例するような設定となっている。ただ、トリックを取った色に対応する得点カードがすでに尽きている場合*2は、5点のカードを取ることができるため、勝ちやすい赤が序盤に集中した場合に、最後のあたりまで赤を温存できれば大量得点のチャンスだ。もちろん、これだけでは単純に赤や青の強いカードをたくさん持っているだけで楽勝なのでしらけてしまう。ルールの話をもう少し続けよう。
ゲームの特徴はマストノットフォローということ。最初にカードを出す親には出せるカードの制限がない。親の次に出すプレイヤーは、親の出した色以外のカードを出さなくてはならない。つまり、今場に出ている以外の色のカードしか出せないわけだ。こう書くと出すカードに制限のない親が強そうに思えるのだが、同じ数値のカードが出ている場合は後出しプレイヤーのほうが強いので、親の立場は非常に弱く、親で連続してトリックを取るのはなかなかに難しい。そして4番手のプレイヤーは、出せる色に選択肢がないので親よりも立場は弱い。4人プレイの場合は3番手のときが選択肢が残っている(4番手の選択肢を限定させる)こと、同値のときに後出し有利な点から最もトリックを取りやすいチャンスと言えるだろう。
ここで、「あれ、このゲーム4色しかないけどマストノットだったら5人プレイはできないんじゃあ?」と思った人は正しい。5人プレイの場合は、1枚だけ重複する色を出しても良いのだ。そのため、4人プレイの4番手は選択肢が常に限定されていたが、5人プレイの5番手は、先行プレイヤー達が1枚も重複する色が出ていなければ、あらゆるカードを出すことができ、一番有利になる*3。ついでに言えば、5人プレイのときは同様に選択肢に幅のある4番手もかなり有利である。しかしながら、このルールであっても赤にしかない18や17を出せば必ずトリックを取れてしまうから、やっぱり親になってひたすら大きい数字を出せばいいんじゃないの?ルールの話をもう少し続けよう。
このゲーム、基本的にはカードのデザインは色ごとに決まっているが、黄の1~3と赤の16~18のカードは特殊なカードとなっている。前者はパケ絵にもなっているポテトマンであり、後者はピーラーの武器で武装した見るからにワルいポテトキラーである。
普段はひ弱なモヤシ野郎であるポテトマン(芽まで生えとる)、宿敵のポテトキラーと同時に場に出ている時は、数値的に圧倒しているポテトキラーを倒すことができるのだ(よく見るとポテトマンの持つフォークの先にはポテトキラーが刺さっている)。逆に言えば、ポテトマンはポテトキラーにしか勝てないのだが、このルールがあるために、親や2番手のときにポテトキラーを出すのは(自分がポテトマンを独占していれば別だが)かなり無謀な行為となる。ポテトマンを極めるのはなかなか難しいのだが、これが極まると自然に「ポテトマーン!」と叫んでしまうくらいに気持ちがいい。そしてポテトマンは黃カードであるため、これでトリックを取るということは、それだけで4点。赤でトリックを取っても1点にしかならないわけだから、ポテトマンを持っていたら狙うしかない。ポテトキラーを持っているプレイヤーは、いかにポテトマンにやられずにポテトキラーを通すか、まるで某賭博黙示録マンガのEカードのような緊張感を強いられるのである*4。そしてこのゲームにはもうひとつ駆け引きの要素がある。最後のルールを見てみよう。
ゲームのセットアップでは、4人プレイで12枚ずつ、5人プレイで10枚ずつだ*5。ハーツでは手札を使い切ったらラウンド終了となるのだが、このゲームでは「誰かがノットフォローできなくなった」タイミングで即終了である。だから、7トリック目あたりからマストノットの縛りによってさらに選択肢が絞られていくことになり、赤ならまだ出せるのに出せなくなってしまい、ノットフォローできなくなって即終了、ということが起こる。このルールがあるために、あまり偏った手札にするのは危険だし、ポテトマンが切れてからポテトキラーを出そうとしたら、その前に終了してしまった、という悔しいことも起きる。逆に、後半の親のときに、あえて一番最初にポテトマンを出し、選択肢がなくなってポテトキラーを出さざるを得なくなる状況(個人的にはこれを置きポテトマンと呼んでいる)も出てくる。後半の後手番では、「そこ緑じゃなくて青出してくれたら続いてたのに!」「き、黄色の13が無駄にィィィィィーッ!」「何をするだァー!許さん!」ということもしばしばで、勝負どころじゃなくても緊張を強いられる。手札に残されたカードのバランスを考えることで5人プレイの後半で4番手のプレイヤーが意に沿わぬ色のカードを出さざるを得なくなり、5番手がどの色でも出せる一番有利な状況を作り出してしまうことになることもしばしば起きる。
あらゆる学問にある程度共通することだと思うが、法則や公式、証明はシンプルであるほどエレガントで美しい*6。このゲームも、トリックテイキングをメインのゲームシステムとしたものとしては、シンプルな部類に入ると思うが、味付けのしかたが絶妙で、全体としてエレガントに仕上がっていると思う*7。ゲーム慣れしているメンバーであれば間違いなく盛り上がる。そうでなくてもフルゲームを1回プレイすれば勘所がわかるので、面白くプレイできるはずだ。逆にゲーム慣れしていないプレイヤーには面白さがイマイチ伝わりきれない可能性がある。後手番のプレイヤーの選択肢を狭めるようなカードプレイといった駆け引きは、ある程度のゲーム勘が必要なのである。
現在は手に入りにくい状況のようだが(念のため言っておくが、プレミア価格で手に入れるほどではないと思う)、ぜひプレイしてもらいたいゲームである。
*1:なおここで解説しているのはハーツの中でも最も基本的なブラックレディと呼ばれるもののルールである。
*2:得点カードは各色3枚。
*3:そうでない場合は、当たり前だが5番手は選択の余地がなくなるため、一番不利である。
*4:ただこのゲームの場合、「刺すっ・・・・・!」というぬるりとした感じではなく、やっぱりポテトマーン!という明るい雰囲気がふさわしい。
*5:使われない何枚かのカードは箱に戻しておく。
*6:逆にコンピュータに全部計算やらせても結果がでなかったから、この定理は間違い、みたいな力技の証明はエレファントと称される。
*7:箱やカードのデザインを除く。ただ、これはデザイナーもわかってやっているので、リメイクされたとしてもこのイモくさい(まさに)デザインは残してもらいたいものだ。
※ボードゲームに関する評価のポリシーについてはこちらを参照のこと。
カルカソンヌの独立拡張の1つで、テーマは新大陸への上陸、フロンティアの開拓である。普通のカルカソンヌと基本的なルールは同じなので、相違点だけ述べていく。
通常のカルカソンヌは裏が他のタイルとは違うものが1枚だけあり、それがスタートタイルとなってプレイエリアが広がっていく。カルカソンヌ:新大陸では得点ボードを兼ねたスタートボードが付属していて、すでにプリマス、ニューヨーク、ジェームズタウンという3つの町が(不完全ながら)存在する。ここが東海岸となり、プレイエリアは左側、つまり西へと広がっていくことになる。また上下についても際限なく広げることはできず、ボードの上下辺を超えて配置することはできない。
猟師は通常のカルカソンヌの農民と同じだが、農民がゲーム終了時に自分が支配している草原にある完成した町1つにつき3点なのに対し、新大陸の猟師は、自分が支配している草原と森(ゲーム的な区別はない)に生息している動物マーク1個につき1点となっている。後述する測量士のルールにより、得点機会が限られている本作では、測量士に邪魔されない猟師は、支配権さえあれば確実に期待できる得点ソースである。また、小さい子供とカルカソンヌをするときに農民ルールは難しくて省くことが多いが、猟師ルールは動物マークを数えるだけなのでわかりやすい。
交易所については拡張1「宿と大聖堂」における宿つきの道に似ていて、道が完成したときに、道沿いに建っている交易所1つにつき2点が追加される。違う点は、宿は道が完成しないままゲームが終わると、その道にかかる得点はすべて0点になってしまうが、交易所は通常通り未完成の道タイル数×1点と交易所数×2点がきちんと加算される点だ。道は主要な得点源かつ交易所によるブーストがあるので、通常のカルカソンヌではほとんど見ることのない道の相乗り(支配権の分け合い)も必要になる。
測量士はこの拡張の最大の特徴で、得点の追加要素でもあり、妨害要素も兼ねている。測量士は2名いて、ボードの上下辺に1コマずつ、初期配置はスタートボード上に置く。
測量士はいずれかのプレイヤーの得点が発生した直後に、いずれかの測量士コマを1マス左に動かす。このときに、必ずスタートボードに近い列にいるコマを動かさなくてはならない。同じ列に2コマある場合は、任意のコマを選んで動かす。このときに、2つの測量士コマのいるラインよりも右側にある、猟師以外のミープルは、すべて各々のプレイヤーの手に戻されてしまい、得点も発生しない。フロンティアの開拓に乗り遅れてしまったということだ。通常のカルカソンヌは建物なり道なりが完成しない限りミープルが戻ってこないのだが、新大陸では誰かが得点をするたびにミープルが戻されてしまう可能性があるために、手持ちのミープルは5個しかない(通常は7個)。測量士を使うことで、完成間近の町を支配しているミープルを戻させることができる。また、測量士より右手にタイルを配置し、ミープルを置くこともできるが、次に誰かが得点をした瞬間、そのミープルは取り除かれてしまうのは同じ。
できるだけ測量士から遠くの列にミープルを配置すればいいのだが、測量士には得点をブーストすることもできるところが悩ましい。施設を完成させたときに、そこを支配しているミープルと同じ列に測量士がいた場合、1コマにつき4点が加算されるのだ。つまり、測量士にもう少しで追い越される状態(同じ列に測量士が2コマある状態)で施設を完成させることで、道ならば8枚、町ならば4枚分と同じ価値の追加得点が生じる。これは実に大きい。また、1枚のタイルで複数の施設が完了する場合は、得点計算をするたびに測量士が動く。そして得点計算の順番は、タイルを置いたプレイヤーが任意に選べるところに面白さがある。例を示そう。
この例では他のストーリーも考えられる。もし赤のプレイヤーよりも黒のプレイヤーが得点をリードしているならば、先に赤のプレイヤーの農場を完成させ(農場9点+測量士2コマ8点=17点)、次に青の道を完成させた(道4点+交易所4点=8点)後、最後に黒の町の得点を解決すれば、町8点+国旗2点+測量士2コマ8点=18点となる。他プレイヤーとの得点差がどうなっているのかによって、いくつか選択肢が生まれるわけだ。他にも自分で得点化をしたいが、今得点化をすると、相手にリーチがかかっている施設に測量士が移動してしまい、大量得点されてしまうリスクが発生する…といった、測量士を介した他者との絡みも発生するため、考えどころは多い。
カルカソンヌは何回もプレイすると、どうしても淡々としてしまうが、新大陸のようにテーマ性があると、途端に開拓者たちの息遣いのようなものが聞こえてくるような気がする。また、序盤は測量士から離れた列にタイルがおけない関係で、測量士にあぼーんされる前に得点化すべく、2枚町(俗にリップ都市とか言われているアレ)や短い道が次々に作られていくが、中盤にさしかかると測量士から離れた列にもタイルが置けるようになって、展開がゆっくりしたものになる。それなりの大きさの町や農場が作られ、道も長くなり、猟師がちらほらと出現する様は、徐々に新大陸に人々が定着していく様子に見えてくる。終盤は少しでも得点化できるように、また細かい施設が作られていき、測量士の動きもスピードがあがっていくという、新大陸における西漸運動と同じような展開となる。デザイナーの意図したものかどうかは不明だが、カルカソンヌのルールを大きく変更することなくこの展開を演出したのであれば、ユルゲンすげーの一言である(カルカソンヌ以外パッとしないとか思ってすみません)。
逆に不満点としては、上記の裏返しで、測量士がいるために大きな町ができず、また農場はほぼ完成しない。また道の使い勝手がよすぎて、他の得点手段とバランスが悪いということができる。おそらくこのあたりがBGGで評価されていない原因と思われる。町のイギリス国旗をもう少し増やすか、国旗の追加得点を3点くらいにすれば、少し大きな町を作ろうか、ということになりそうな気がする*1。
通常版のバランスと比べると、どうしても大味なものになってしまうのは確かだが、テーマによくあっていて、測量士による妨害も息苦しさを感じない。元々がカルカソンヌなので面白さも保証されている。少し毛色が代わったカルカソンヌがプレイしたくなったときにおすすめのゲームである。
*1:大きな町が作りづらいことはデザイナーもわかっていて、通常版に1枚だけ入っていた町オンリーのタイルは存在しない。